ある本の挿絵で見た「シベリアのラブレター」は、ノンリニアな言語を考えるときいつも脳裏にただよっていて、カンブリアン・ゲームの着想にも影響を与えている。
いままでわずかな情報しか知らなかったこのラブレターについて、北方少数民族の言語を研究しているたんぎーさんから、本やURLなど情報の糸口を教えてもらった。
シベリア北極海沿いの少数民族ユカギールは、白樺樹皮にナイフの刃で描いたトースと呼ばれる絵手紙のような表現形式をもっていて、女はトースで恋の想いを伝えることができた。
たとえば上のトース。凸の下線をとったような形は娘の家で、とんがった鳥の羽のようなのが人物。ドットで描かれた飾りの房などで、性別や人物を特定できたのだろう。このくらい単純な恋愛だと、相合傘と同じで翻訳は簡単だ。「私の心の限り、あなたを愛しています」
人生がややこしくなると、リニアな言語で表現しにくい事態が、トースの上では整理される。たぶん書いている女の心も、整理される。
私Aは一人で家にいる。かつての恋人Eは、別の女Hと住んでいて、二人の子どもJKが産まれる。もうひとりの男Nが寄せる想いを、私Aはどうすることもできない。
交差した線が関係を示し、曲がりくねった線が揺れる心情をあらわしている。
もうひとつ、
http://ilin-yakutsk.narod.ru/2000-4/28.htm にあるトース。
サイトに書かれているテキストがロシア語で読めないにもかかわらず、トースを描いた女のドラマが、これまでの二つの例文から理解できるところが、この言語が言語たるゆえんだ。彼女、このあとどうしたんだろうね。
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さらに詳しい情報は、
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=827516288&owner_id=63253 (最後の方のコメント)