安斎利洋の日記
2006年01月28日
12:54
カンブリアン文書に関するカンブリアン文書
1.まず種を植える。ここから始まる木の形式を私はカンブリアン文書と呼ぶが、カンブリアン文書のサブセットである連句について、芭蕉は「一歩も後に帰る心なし」(三冊子)という言葉を残している。決して源流へ遡行しようとしない放逸な速さと軽さは、カンブリアン文書の特質である。[→2→3]
2.[←1]したがってカンブリアン文書の木は、たとえそれが壮大な旅の始まりであったとしても、あたかも偶然そこに落ちたような何気ない種から発芽するのが似つかわしい。[→4→10]
3.[←1]もし私が厳しい木を望むなら、私はカンブリアン形式を選ぶことはない。厳しい木は(たとえばP・ブーレーズのワーク・イン・プログレスのように)不断に推敲される木である。厳しく推敲される木は、葉から枝へ、枝から幹へ、幹から根へと逆行する調整のただなかにある。出発点は、度重なる更新にさらされ、より重く強い必然性を帯びてくる。[→25]
4.[←2]カンブリアン文書は種へ帰らない。むしろ種の影響は瞬く間に減衰する。それは木というより結晶である。実際カンブリアン文書の地形図は、DLA(拡散に支配された凝集)による結晶とよく似ている。[→5→6]
5.[←4]DLAは、酔歩(ランダムウォーク)する粒子が種に付着することによって結晶を成長させる。付着した粒子は、次の粒子の付着を誘発する種となる。凝集した粒子は到着点であり出発点でもある。結果を原因に接続する循環によって、DLAは再帰的な構造をもつ樹状結晶を成長させる。[→8]
6.[←4]カンブリアン文書の原初形態であるポストイット・カンブリアンゲームは、付箋紙を粒子とする樹状結晶である。まず種となる絵をリーフ(付箋紙)に描き、台紙中央に貼る。参加者は、種に誘発された連想をリーフに描き、種の近傍に貼り、影響を示す矢印を書き入れる。種は複数のリーフを付けることができる。貼られたリーフは種と等価であり、次のリーフを誘発する。[→7]
7.[←6]リーフの作者は、ひとりの場合もあるし、複数の場合もある。自分の付けたリーフへ連続して付けることを許可するか、ひとつのリーフはいくつまで分岐をもてるか、などといった規則をそれぞれの木に課することができる。
8.[←5]カンブリアンクラスタを前にして、参加者は目の赴くまにまにリーフ群を酔歩する。連想が立ち上がると、そこに新しいリーフを付加する。ここで参加者は、鑑賞者である位置と制作者である位置を変えることはない。この循環が、カンブリアンクラスタを樹状に育てていく。[→9→13]
9.[←8]カンブリアン文書は、長年われわれが追求してきた連画(私と中村理恵子のプロジェクト)の多様な試みに通底する原理を一般化するために考案された。したがってそこには、見る者と描く者を仕切るメディアの構造に対する問いかけと、見ることと作ることの循環する構造が仕込まれている。
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続きは『現代思想』2006・2月号(特集:ポストゲノムの進化論)をごらんください
コメント
2006年01月28日
12:55
中村理恵子
{・・]
2006年01月28日
13:08
Linco
{[・・]}
2006年01月28日
13:13
noriko
←{‥]
2006年01月28日
13:18
かーるすてん2こと
{[・ ←{‥] ・]}
2006年01月28日
16:18
←{{[・ ←{‥] ・]}]
2006年01月28日
19:14
H.耕馬
オヤァ?コメントはProgram化するしきたりっすか?
だとすれば、Lincoさん以外の方は、みんなシンタックスエラーやね。(^-^)v
2006年01月28日
21:28
俳胚
文書の中にある時間を見ると、矢印と逆行している内容あり。
内容と時間を掻き混ぜるとどんな絵が現れるだろう?
2006年01月28日
22:29
安斎利洋
俳胚さん、鋭い! カンブリアン文書は因果を遡行しない、といいながら、この文書がその通りになっているかというと、少しごまかしがあります。カンブリアン的な論文は、もっとはちゃめちゃになるべきかもしれません。
耕馬さん、もしかしてlisper?
2006年01月28日
23:35
H.耕馬
lisperよりもCasper(昔のオバケ映画)の方が、、、という話は置いておいて。。。
Lispって演算子、矢印でしたっけ?逆ポーランドのpush,popって矢印じゃ無かったっけ?(無知を晒すなぁ)
2006年01月29日
00:59
安斎利洋
矢印演算子って、直感的でいいですよね。Lispにありましたっけ?
カンブリアンのデータを、XMLで書く書式を考えているんですが、本当は<linkfrom> hoge </linkfrom>なんで書くより、<-hoge と書きたいところ。XMLは可読だけど、ごちゃごちゃしていてすっきりグラフィカルな構造をあらわすには不向きです。
2006年01月29日
11:13
H.耕馬
そういえば、ポインター表記が <- でしたよね。
「代入」とか「push,pop」が矢印の方が直感的ですね。
代入 ←
呼び出し →
push ↑
pop ↓
2006年01月29日
11:15
以前から疑問だったのですが、逆ポーランドってことは順ポーランドもあったのでしょうか?
2006年01月29日
11:28
安斎利洋
逆ポーランドの逆がLISPというべきですね。
A+B は、
逆ポーランドなら A B +
LISPなら、(+ A B)
2006年01月29日
11:39
ikeg
これは、fixed pointですか?ある規則を足すと動き出しますか? 例えば、8があると4の否定が成立する。のような文。記述はその読み手が同時に埋め込まれてることは大事なんだけど、その実行そのものがどう埋め込まれるかが大事ですよね? つまりこのカンブリアンを書いてる行為もこのカンブリアンの一部であるような。
2006年01月29日
20:39
安斎利洋
ikegさん、よくこれだけ短いところに、これだけの示唆を詰め込めるものだ。
カンブリアンは、文書をコントロールする超越的で強い筆者を前提にしないで、個々の粒子が同期しないで勝手に連結していく形式ですから、それぞれの粒子はどんどん勝手に固定化されていく。そこに、どうやって記述の対話的な運動性が埋め込まれていくかというと、自然と局所的な反転や、階層の飛躍が連ねられることになる。
今続いている『音の樹』で、リミックス系の音楽に、市場の喧騒の録音がつながり、そこに溝板の上を走る自転車の音がつながり、その溝板のリズムがまた音楽を生む。こういうのは、実にカンブリアン的。そういう意味で、僕が一人で書いたカンブリアンはあんまりカンブリアンっぽくないです。
カンブリアンが、より強い対話性を獲得するためには、もっと明示的な否定の機構が必要なのかもしれない。
2006年01月31日
00:38
ikeg
なるほど。ぼくはカンブリアンをうちの院生に教えてもらったときに感激しましたが、カンブリアンの持ってるはずの本質的なオープンネスが見えそうで見えないのが不満だったのです。否定というのは、構成されつつあるカンブリアン全体を俯瞰するので、かなり異なる木がうまれるはずですよね。
ところで、音と絵を混ぜた方が、よりカンブリアンでは?
シュトックハウゼンの音楽は、渋谷の109の風景へと。
2006年01月31日
03:05
安斎利洋
カンブリアンは成長が終わってしまうと、なかなか読む気が起こらない、読む行為を喚起しないという問題があって、これはユーザーインターフェースの問題などを除くと、ikegさんが言っているような記述の問題に行き着くのだと思います。囲碁の棋譜のような、抑制やどんでんがえしのあるカンブリアンを目指してみたい。
音に絵をくっつけるようなセッションは、ごく近い将来、やってみたいと思います。
2006年01月31日
23:28
ikeg
カンブリアン言語! ができるといいですね。安斎さんなら作れそうな気がする。
2006年02月01日
03:48
安斎利洋
すばらしいヒント。覚悟を決めてみます。
2006年02月01日
13:29
酢鳥のような人工無脳とカンブリアン言語の最大の違いは何だろうか? (同じと言ってるんじゃないです)
カンブリアン言語は自然言語じゃなくてカンブリアン言語なんでしょうか? ヨロヨロしたことを聞いてすみません。
2006年02月02日
01:13
ikeg
ヨロヨロしてるなー(笑)。意味から規則が生まれる稀な例になってるからですよ。カンブリアンは。
2006年02月02日
13:32
>意味から規則が生まれる稀な例
そっか。辞書との違いもそこですね。
2006年02月02日
20:53
イクノ
安斎利洋 様
始めてお邪魔致します。どこでお話ししたらよいか
分かりませんでしたので、とりあえずカンブリアンを
取り上げていらっしゃるエリアを選択しました。
お褒めのお言葉頂き誠に恐縮です。
未熟者ですが今後ともご指導ご鞭撻宜しくお願い致します。
先ほどトップページだけ見させて頂きましたが
改めてこの後、安斎利洋さんのサイトを拝見しに行きます。
すごく素敵な世界がある予感です。
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