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動的テキスト全体に公開
2007年11月04日02:53
福岡伸一さんがさかんに言っている「動的平衡」(人間は数ヶ月で分子的には別人さ、というあれ)にやられてしまっているせいか、今月22日のデジタルドキュメント学会でのパネルでは、まず「動的テキスト」について話そうかと思っている。

『デジタルドキュメントシンポジウム2007』
http://www.ipsj.or.jp/sig/dd/ddsympo-07.htm (参加者募集中)

「動的テキスト」というと、サーバーで動的にテキストが作られるような話が情報処理学会っぽいんだけれど、今度のシンポジウムはそういうノリじゃない。6月に国立新美術館でやった『発現するドキュメンテーション』 の再燃というかリベンジというか、メンバー構成も近いし、コンテキストが実に境界知で、つまり専門バカっぽくない。

動的テキストとは、、、

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われわれは「表現」という言葉をなにげなく使っているが、「表」に「現」れると書くこの言葉は、表に現れていない潜在的な思考が、先立って準備されていることを暗黙の前提にしている。われわれをとりまく技術、テキスト、社会、法律、芸術などが表現であるなら、それらは表に現れる前に、黙々と脳裏で展開する思考として準備されていたはずである。しかし、果たして表現は開始されるときにあらかじめ設計の終わっている作業であろうか。
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生命が、環境の中の分子の流れにすぎない、というのと同じ意味において、いま世界をとりまくさまざまな表現は「流れ」にすぎない。ブログもSNSもカンブリアンも、テキストが開始されるときにテキストの背後に表出を待ち構えている「概念」がない。それは、相互作用のステップの中から、動的に発見されるものだ。

そういう観点からすると、パワポっていうのはいちばん良くない「静的テキスト」だね。この手のパネルは、ほとんどパワポによって骨抜きにされていると言っていい。そこで起こるべき相互作用は、あらかじめ用意された書き換え不可能なパワポプレゼン資料によってターミネイトされている。話すことを話して帰るパワポ脳が、激増なのだ。

で、困ったことに、シンポジウムの予稿集にパワポの提出を求められている。

コメント

tekusuke2007年11月04日 03:03
ダルマの絵を描いたスライドを一枚。

「どうだ手も足も出ないだろう!じゃあそこからはじめましょう」と口火を切るのはいかがでしょう :-)
ヒマナイヌのカワイ2007年11月04日 03:15
これは実におもしろそうですね!
ヒマナイヌのカワイ2007年11月04日 03:17
リンク先に日付はあるのですが時間がないみたいです。
遼 遠 ☆2007年11月04日 03:18
僕もパワポが嫌いなので、
明日までにパワポを排除する資料を作ってきます!!!


パワポで。
安斎利洋2007年11月04日 03:25
ダルマの絵、卓見ですね。
そうなんですよ、パワポっていうのは口出しさせない、事を起こさないためのツールだから。
安斎利洋2007年11月04日 03:29
>リンク先に日付はあるのですが時間がないみたいです。

パネルは14:05からですが、9:30-の高野さんの話は興味深いです。
高野さんの「連想」についての哲学と、どう絡めるかが楽しみ。

>パワポを排除する資料を
>パワポで。

ダルマを言い換えれば良さそうですね。
びすけっと2007年11月04日 07:30
ソフトの操作性はともかくとして,

昔は透明シートに手書きのOHPだったので,かなり前から準備をしなければいけませんでしたが,今は発表直前までパワポを直しています.それまでの他の人の発表に絡めたりもしますね.
Mike2007年11月04日 07:30
PowerPoint批判はTufteが情報デザインの観点からしていますが、教室での教示という観点からも、PowerPointは劣ります。黒板>OHP>PowerPointという順でしょうか。より静的で保守的でもあり、インタラクションの割合が低下していますよね。
 某社の未来予測図に、家族での話し合いにPowerPointを用いているシーンが出てきて、思わず苦笑してしまいました。
Mie2007年11月04日 08:29
>で、困ったことに、シンポジウムの予稿集にパワポの提出を求められている。

う、ネタを提供してしまった。
パワポじゃなくていいんですよ。
というより、本来は論文形式ですが、労力軽減のために発表用のパワポでもOKにしてるだけですから。
最近、考えをパワポで表現できても文章化できない人が増えてて、論文もパワポでOKにするか、という話題まで出ている。
パワポ脳増殖中。絵をぺたぺた、単語をぺたぺた。頭が退化します。
まさに、パワポの功罪。

KJ法に疑問を持っている私としては、安斎さんの動的テキストはとっても興味がある内容です。パネル、楽しみにしてます。
ikeg2007年11月04日 09:14
やっぱり、その場でプロジェクターに映しながら書く。僕は最近そうしてます。こないだのワタリウムの熊楠のもそうでしたが。手で書きつつ、ビデオやシミュレーションも見せるっていうのが、ongoing-ness生まれるし。
 しかし、動的平衡ってのはどうかな? どっかにopennessがはいらないと
 open dynamic non-equilibrium で。
tekusuke2007年11月04日 11:56
ちなみに、法制度的にも課題ですね>動的テキスト。

メディアに固定されることを前提とせず、即興でできあがったものって、いわゆる著作権法で想定しきれてない範囲だと思います。

で、これがビジネスだろうと学術だろうと遊びだろうと、創造性の源泉(あるいは創造活動の出発点)だとしたら、これを守れない著作権法って何?というところだというのが今の衝突状況の一端だと思います。
安斎利洋2007年11月04日 14:23
動的平衡といわれると、散逸構造をすとんとスキップしてる感じがするんですが、ikegさんに「福岡さんってどうよ」と聞きたいと思ってました。
脳の分子が数ヶ月で全とりかえになるというのは、僕にとっては衝撃的なんですが、あれはたんなるレトリック?

ikegさんの本、おいしいものは最後に食べたいような感じで、ゆっくり読んでいます。
http://www.amazon.co.jp/%E5%8B%95%E3%81%8D%E3%81%8C%E7%94%9F%E5%91%BD%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%82%8B%E2%80%95%E7%94%9F%E5%91%BD%E3%81%A8%E6%84%8F%E8%AD%98%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%A7%8B%E6%88%90%E8%AB%96%E7%9A%84%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%81-%E6%B1%A0%E4%B8%8A-%E9%AB%98%E5%BF%97/dp/4791763513
安斎利洋2007年11月04日 14:36
>家族での話し合いにPowerPointを用いている

これ、逆に考えると家族の話し合いに使えるプレゼンソフトを作れば、万能ですね。
安斎利洋2007年11月04日 14:38
>う、ネタを提供してしまった。

すまん、ネタにしてしまった。

>KJ法に疑問を持っている私としては

それはどういう疑問かに、興味があります。
よく、カンブリアンゲームはKJ法みたい、といわれるんすが、それは違うと思う。
最近、マインドマップに似ていると言われるんですが、それはさらにむっとくる。
安斎利洋2007年11月04日 14:45
>創造性の源泉(あるいは創造活動の出発点)だとしたら、
>これを守れない著作権法って何?

そうなんですよ。クリエイティブコモンズにしたところで、複雑に相互干渉したコンテンツには対応できてないですよね。リミックスで作られた絵があったとして、そのパーツすべてにCCアイコンをつけていくと、最後にCCアイコンだけのアスキーアートになる、みたいなことになる。

そういえば、学会誌に論文を出すときに著作権譲渡を求められるって、どういうことなんでしょう。なんで、自分のテキストをほかに出すときに許可を求める必要があるんだろう。本来、これはCCにすべきじゃないのかな。
安斎利洋2007年11月04日 14:50
>昔は透明シートに手書きのOHP

びすけっとさん、マチスの「切り抜き」を、ビデオの書画台と組み合わせると、すごいプレゼオンツールにならないかな。
ikeg2007年11月04日 19:32
動的平衡なものは多いですが、生命そのものとか、臨場感つまりクオリアのようなビビッドネスとか、そーゆーのは動的平衡ではぜんぜん駄目だと思います。散逸構造をすっとばしているというか、20年前の話の気がします。だけど文章がうまいからね。本、ありがとうございます。そろそろまた飲みにでも行きたいですね。
安斎利洋2007年11月04日 23:27
福岡さんのレトリックは、何を語らないでおくかとか、誰に語るかということを含めた巧みさで、一流の作家になれる人ですね。浦沢直樹と組んだら、売れるだろうな。
たいていの人の日常感覚は、「自分」は静的な持続する状態として取り出せると思っているのを知っていて、それを見事に裏返している。

>そろそろまた飲みにでも行きたいですね。
ぜひ。ムサビのあとに飲んだのって、もう一年前でしたね。
Yamahige2007年11月05日 10:55
「話すことを、話して帰って許してね」
明日、英語で発表しなきゃならないんですよ…
すっごくつまらなくて準備がちっとも進まない。

「話すことを、話して帰って楽しいか?」
…あぁ、なんと罪な日記だこと!
安斎利洋2007年11月05日 16:58
出すぎた杭は打てない。
聴衆をぶっちぎって、帰ってきてください。

出すぎた杭は自分で倒れる、というのもあるけどね。
中村理恵子2007年11月08日 08:36
>生命そのものとか、臨場感つまりクオリアのようなビビッドネスとか、そーゆーのは動的平衡ではぜんぜん駄目だと思います。

その場に満ちる狂喜とか、狂気とか飛躍の肌理を、それらの彩度を吸収できるような、バネがシステムにあればね。時に剛で、時に柔で。あるいは、それらないまぜの相反する質感が同時に在る中でさ、爆発することで、もっとも安定するようなセンスの中に生きられればね。
Yamahige2007年11月10日 23:11
あれからCrossConceptのプレゼンモードを作って、それでプレゼンしました。
ユニークとの評はもらえた。でも、出すぎてこけたかも(^_^;)
いやぁ、楽しかった。
安斎利洋2007年11月11日 02:26
yamahigeさんは、XML文化圏にとっては爆弾だと思いますよ。
セマンティックスじゃ出会いそうにない文書を、カップリングしようとしているわけだから。頭が木構造の人たちは、本質的に受け入れないでしょうね。
machiko2007年11月11日 06:43
パワポって、麻薬+拘束服、みたいな感じですね。
それがあれば安全、なんだけど、フレキシビリティを奪い取ってしまう。 
OHPやビデオを流れに応じて選びながら見せてたように、素材を用意しておいて、ページの順番はその場で自由に選べるようなシステムって、できるはずだと思うんですが。
(私はmacなのでKeynoteを使ってますが、大スクリーンと手元スクリーンで別の表示にする機能があります。この応用で、手元スクリーンにページの一覧を出して、そこからチョイスしたのが大スクリーンに出る仕組みって、できるのでは?)

学会誌の版権譲渡、時代に逆行だと思います。
自分自身が編集委員をしている学会誌がそういうことになってしまいました。以前に書いたものの著作権譲渡の同意書が来たけれど、出してません。
Yamahige2007年11月11日 14:49
あ、ちなみに、発表したのはKICSSという知識科学系のカンファレンスです。
http://css.jaist.ac.jp/ijcks2007/

>素材を用意しておいて、ページの順番はその場で自由に選べるようなシステム
『発現するドキュメンテーション』 のとき、安斎さんのプレゼンはそんな感じでしたね。
ぼくも安斎さんのふうに作りました。《次のスライド》がありません。
戻ってから《次のスライド》もできるように機能追加中なんですけどね…
machikoさんのコメントみて、一瞬、手が止まった。
やっぱり罪な日記ですね。

宣伝っぽくてなんですが、WindowsのPowerPoint 2003でもこんなことできます:
・Windowsの画面のプロパティでマルチモニタ、拡張ディスプレイ…などに設定します。
・パワポの「スライドショー」メニューから「スライドショーの設定」 を選んで、ダイアログ右下の「複数モニタ」でスライドショーの表示をプロジェクターの方に設定します。
・その下の「発表者ツールを表示する」にチェックを入れると…あれまぁ!
これでmachikoさんの要望にかなうのでは?
machiko2007年11月12日 03:14
そういうこと、できるんですね>Yamahigeさん

インタラクティブなコンテンツとリニアな映画が意味が違うように、流れに乗せる企みを持ったプレゼンテーションもありますよね。
だから、「次のスライド」が決まってる状況というのも当然あるわけで、それはそれで、いいと思うんですが。
安斎利洋2007年11月13日 02:30
>以前に書いたものの著作権譲渡の同意書が来たけれど、出してません。

戦ってますね。

著者が学会にコピーライトを許諾する、ならわかるんだけどね。
著者が発表する場合、著者が学会に許諾を求める、という契約ですよね。
出版やソフトの契約なんかでも、本来なら会社の独占的な使用権をある期間認める、というべきなのに、著作権譲渡と言っちゃう場合が増えてますね。
学会の指針を出してるのって、文科省なんでしょうか。文科省は、著作権に関して経産省とは別の立場をとってほしいな。
安斎利洋2007年11月13日 02:35
>《次のスライド》

次に何を見せるか、という迷いというか、マイクロスリップを、聴衆と共有するのが大事だと思うんですよ。確信に満ちたプレゼンも、もちろんアリなんですが。
SYNDI2007年12月03日 20:15
’パワポ脳’という言葉が実に恐ろしいです。

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