安斎利洋の日記全体に公開

2005年11月18日
17:17
 時間泥棒としての遅延線
昨日の時間泥棒の話は、フォマール師の引いてきたデュシャンの言葉で転調。いわく、

「タブローとか絵画の代わりに{遅延}という語を用いる。ガラスに描かれた絵画はガラス製の遅延となる」

絵が遅延というのはまったくその通りだと思うし、遅延は帰還回路をともなって、創出の足がかりにもなる。

そういえば、先日 俳胚さん(この方もフォマール師と同じ仙人界に属するけれど、下界ではPCーVANの総帥だった)の話に端を発し、エニアック時代のエドサックに使われていた水銀遅延線のことが話題になった。帰還回路の入出力に接続されたふたつの水晶、その間にはさまれた水銀、この循環回路が{遅延}={記憶}になる。
(この話、ちゃさんも引いてくれている http://mixi.jp/view_diary.pl?id=50833919&owner_id=61507

30年前、創出のための遅延線に取り憑かれていたことがあった。テープ式ディレイの帰還ループにリング変調器を挿入し、たくさん音楽を作った。その当時集めてきた遅延素子を、押入れの奥の段ボール箱から引き出してきた。

スプリングディレイは、BBDができる前のカラオケマシンの定番エコー装置だった。
LCの遅延線(ディレイ・ライン)は、シンクロスコープの中で、現象が起きる寸前の過去を見るためのタイム・シフターとして機能する。これらの素子自体が、僕にとって押入れの中の{遅延}だ。

{遅延}を、当面のテーマにしてみよう。
 

コメント    

2005年11月18日
17:57
Archaic
テープでループ音楽!25年前に学園祭で友人が発表しました。笑い声や喋る声をモチーフにしてました。遅延による空間の出現とでも言ったらいいのかな、特殊な場が現れるのは、面白かったです。
2005年11月18日
18:21
元祖いまじん
> テープ式ディレイ

SOS(Sound on Sound)というやつですね。録音ヘッドと再生ヘッドの空間的な距離(位置のずれ→遅延)を利用し、もとの音源にフィードバック(帰還)すると入力音源が変容する。私も放送部時代に残響効果で遊びました。デジタル時代になって、こういう遊びはもう出来なくなってしまったのでしょうかねぇ。

>スプリングディレイ

こっちは物理現象で、まさに音を揺らしていたわけですよね。これは中学生時代、CQ誌の通信販売のところによく掲載されていたような記憶が… (当時、といっても30年前ですが…)アマチュア無線の世界でもエコー付きで送話してくる方がいらしゃったけれど、あれは反って聞き辛かったなぁ。

リバーブユニット(スプリング・ディレー)の写真みて、過ぎ去り日々の(ラジオ少年時代の)自分を思い出したのでした。
2005年11月18日
18:35
安斎利洋
>テープでループ音楽!25年前に学園祭で友人が発表しました。

いやー25年前にお友達になりたかった。

30年前、19歳のときに作った音をmp3にしてみました。
http://cambrian.jp/anzai/files/gaitou.mp3
エレキギターをヴァイオリンの弓で弾いて、リングモジュレーター+テープディレイの回路に入れたもの。

30年の{遅延}でした。
2005年11月18日
19:21
Archaic
幻想的。
gaitouとはどういう文字をあてるのでしょう。

25年前、きっと私、面白かったとおもいますよ〜。
作曲のお友達とかもいろいろいたし(笑)
2005年11月18日
19:25
安斎利洋
いや今でも面白いです。

gaitouは、街灯です。暗い道を歩いていると、サイクリックに街灯が現れて自分の影が後ろから前に伸びるイメージ。
2005年11月18日
20:17
Archaic
街灯かなっておもいましたが、違うと失礼かしら、とおもいまして伺いました。まさに、安齋さんがイメージされたもの、伝わってきました。
2005年11月18日
20:51
H.耕馬
>遅延は帰還回路をともなって、創出の足がかりにもなる。
これは、発振回路の事を言ってる?
それとも記憶回路の事?

>テープでループ音楽!
これが発展して1キーに1テープを割り当てたらメロトロンが出来たんだから、キャプチャリング+メモリーって事?
2005年11月18日
20:56
安斎利洋
>これは、発振回路の事を言ってる?
>それとも記憶回路の事?

帰還のかけかたによって、自励発振回路にもなるし、正確に入力=出力なら記憶回路にもなる。でも僕がイメージしているのは、むしろ帰還ループに非線形の関数が入った乱数発生器かな。
2005年11月18日
20:58
安斎利洋
archaicさんが日記に書いているゲルハルト・リヒターの絵を見ていたら、絵は{遅延}だ、と思いました。
2005年11月18日
21:06
H.耕馬
>でも僕がイメージしているのは、むしろ帰還ループに非線形の関数が入った

「超再生」って回路があって、これは帰還ループにわざと非線形の部分を使った増幅器を入れてやると、何故か発振せずにそれこそ超高感度・高SNの回路が出来る。調整が面倒なので廃れてしまいましたが、アレって技術者心をくすぐるんだよね。
こちとら工学出身なんで、すぐそっちに考えが行ってしまうのです。
2005年11月18日
21:07
Archaic
実は、同じように想いました。そうなんですよね、リヒターの絵は見ている人に託されている部分が大きくてそしてそこに共有する感覚、普遍性もある。ガラスを11枚重ねたその揺らぎとブレの中に出現する観ている自分の姿などは時間と意識の遅延による複層性と多義性を現出させているんですよ。
鏡にしても。
しみじみっと考えさせられ、彼のクールな眼差しと思考を突きつけられる展覧会でありました。
2005年11月18日
21:11
安斎利洋
>超再生

面白いねー。帰還ループにはさまる関数が信号によって変化したら、なにかできないか、とかね。フィードバックは面白い。
2005年11月18日
21:15
Linco
mp3、聴かせていただきました。
30年前なのに今が含まれていると感じました。
2005年11月18日
21:19
安斎利洋
>実は、同じように想いました。

やっぱり。絵の中では具象も抽象も同じことだけれど、それってきっと、{遅延}された具象だからじゃないか、などと思いました。
川村記念美術館には、ガラスの絵とか来てるんですか?
2005年11月18日
21:21
安斎利洋
>30年前なのに今が含まれていると感じました。

ありがとうございます。30年のディレイです。これをフィードバックすると次は30年後にまたこの音を聴くことになる。生きてるかな。
2005年11月18日
21:35
Archaic
ガラスの絵というより、ガラスそのもの、だったり、鏡だったり。「視る」ということに徹底的に拘っていますね。
ぜひ、行ってらっしゃいませ!
2005年11月18日
22:17
osamu
ぉお〜〜♪聴きました。空が青かった頃の鉄鋼館が目の前に突如現れました。心に響く懐かしさと同時にある種の普遍性が音の向こうに隠されている気がしました。
2005年11月19日
00:49
安斎利洋
わ、osamuさんのお言葉だ。空が青かった頃の鉄鋼館、というと『20世紀少年』ですねー。
リングモジュレーター使った音って、最近聞かないですね。僕はアナログ乗算器で作りましたよ。『20世紀エフェクター』なのかな。
2005年11月19日
02:14
Linco
12年前のディレイ作品を思い出し、mp3にしてみました。ROLAND SDE 2000の{遅延}です。
http://color-music.com/music/out.mp3

そして、安斎さんの作品と混ぜてみました(mp3に変換中、偶然両曲が同時に鳴ってしまい、そのままはまってしまいました)。
http://color-music.com/music/gaitou_out.mp3
2005年11月19日
02:27
安斎利洋
12年前のLincoさん、30年前の安斎です。2005年くらいの遠い未来のスタイルを予見する音楽です。握手!
2005年11月19日
02:30
安斎利洋
2005年の安斎です。

これは、おそらく正負逆転した音を、しだいに遅延0に近づけていって、ついに対消滅するということですね。

本当に、面白い。混ぜただけなのに。街灯の向こうの景色が変わりました。
2005年11月19日
02:37
Linco
ありがとう-ございます。これで今日は迷う事無く成仏できました!
2005年11月19日
02:48
Linco
当時その量子化ノイズに魅せられました。ディレイ自身がSampleを繰り返し読み込んでいく過程(フィードバック)に次々と取りこぼしが起き、結果的には対消滅したのだと思います。手動でコントロールするのに苦労した気がします。

そうなんです、偶然景色が変わったんです。意味づけするのはやめようと想いつつ、イメージが生成していくので面白いなと。
2005年11月19日
03:19
osamu
>{遅延}を、当面のテーマにしてみよう。

なんていう刺激的な文字があると夜更かししちゃうので困りますw
{遅延}、仮に{距離}でも{デルタ}でもいいんですが、空間の構造と不可分ですよね、その意味では、残響がホールを創出するなどというのは、むしろ比喩の方で。認識できる世界の原因は{遅延}なのだと思い悩む今日この頃・・。
(話の流れとずれてまたわけわからないこと書いてたらごめんなさい〜汗;)
2005年11月19日
03:29
安斎利洋
あ、そういうことか。繰り返しの1フレーズ分の遅延は一定で、しだいに複写に失敗して白紙になってしまったわけですね。ちょっと条件を変えると、ハウリングになってホワイトノイズのようになったりするわけですね。
遅延回路を複数にすると、フラクタルのリズムが現れるでしょうね。
2005年11月19日
03:33
安斎利洋
>認識できる世界の原因は{遅延}なのだ

あ、そうか、遅延は空間とか定位の問題でもありますね。
絵画が{遅延}であるなら、絵画にも定位がある?

そういえば、ある時点で撮った写真を右目、そのあと何ヶ月かして撮った写真を左目、というような立体視があった。
2005年11月19日
04:03
osamu
{遅延}が順序の定義された量なら定位も存在するのでしょうが、遅延という言葉が持つ時間軸や実数値、じゃない{  }もあるような気がして。。それは何だと聞かれるとわからないんですが。。でも何かを定着表出させるときには自ずと存在に含まれる{  }な{遅延}。。うう。。
2005年11月19日
07:47
元祖いまじん
今朝、私も聴きました! アナログ音らしい揺らぎが心地よかったです。私も中学生のころの声を自分で録音したテープが何処かに存在するので、人生の{遅延}を探索してみよう。
2005年11月19日
08:05
MATANGO
時間と空間というのは、認識するところが違って(また脳..)なかなか統一して理解できない...ということは、混同したっていいんじゃないかと...。

すると遅延「遅れる」というのを、空間と混同(翻訳?)すると「距離」とか「ズレ」になるなあと...。

そこでちょっと思い浮かんだイメージですが...。
ループした回路、これを空間(絵?)に翻訳すると「輪っか」になる。
そこに「遅れ」を入れると、「ズレ」が起こって「うねり」のような別の次元の変化が「生まれて」くるらしい...。

これを「絵」にしてみると、輪っかに「コブコブ」みたいなのが出来てる状態。

で、いつも同じように遅れてるのもなんだし...ということで、遅れ方を変えてみたり(何かの事情で変わってしまったり)する...。

すると、ズレ方が変わり、「うねり方」がどんどん変わっていて、gaitouのような実に面白い音楽ができる...。

これを「絵」に翻訳すると、「輪っか」のような二次元の絵ではおさまりがつかない。
...なので輪っかをZ方向に引きのばすと、「らせん」ができる。
...これが......遺伝子かと.....。
2005年11月19日
11:53
安斎利洋
>時間軸や実数値、じゃない{  }

>輪っかに「コブコブ」みたいなのが出来てる状態

イメージ膨らみますね。2月に書いた日記を思い出した。

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=9809870&owner_id=63253

<夢>
『庭からの物語』は、「ある日の庭にひとつの小さな粒を見つけました」というリーフを種とします。そこから絵とテキストで物語をつないでいきますが、「種に帰る」というボタンを押して投稿すると、そのリーフは種のリーフにつながり、ほかからリンクできなくなります。そうやって、無数の循環する物語が生まれます
</夢>
2005年11月19日
12:49
MATANGO
あ、一回遅れればいいのでしょうか?
フィードバック創世記みたいなものを思い浮かべてしまい...。

輪っかが波うっている。
いつ波うったのかわからないけれど、ともかく波うっている。

この「波」は、勘定が「輪っか」のなかで割り切れている。
...というか、波というのはもともとそういうもの。
なので、一周しても、だからどうした(?)というわけで何もおこらない。
いつまでもただひたすら波うってるだけ...。

そこに、どこからか誰かがやってきて、「うひひ」と言いながら輪をチョキンと切ってしまう...。

輪っかは、「う、どうするどうする!」とあわてて、また端っこどうしがくっつこうとする。
ようやく相手を見つけて、くっついたときには時すでに遅し...「遅れて」いる...。

遅れた「波」は、相手の波とズレている。ズレているので勘定が合わなくなって、もとの「波」を別ものにしてしまう。
もう一度一周しても、「別もの」の波とはまた「別もの」なので、「またまた別もの」の波を生み、それがまたまた.....。

...こうして「世界」は生まれた....。
2005年11月19日
14:12
ディレイとループのカオス? 私は音の世界だけをあまり探究したことがないので、新鮮に響きます。特に合体作品が面白い。
2005年11月24日
11:59
俳胚
そういえば、先日 俳胚さん(この方もフォマール師と同じ仙人界に属するけれど、
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仙人らしき人は、反応が遅延してしまうこともありまた焦点も定まらないことがあります。ただ、何となく気になる話題の
「遅延」という事象、概念の存在は生きている人の世界の
ものであって、その基本は時間という次元がよりどころになっているものでしょうね。
もし、時間が畳み込まれてしまう世界では存在しても存在しないものという思いがあります。
生きているということを前提に遅延を分析してみて、
我慢と辛抱という言葉が浮かびます。
前者は一時的痛み、後者は長い時間が伴う痛みのイメージ。
そうだとして、辛抱は痛みの継続が前提のある種我慢の遅延
回路ということになるのでしょうか。




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