安斎利洋の日記全体に公開

2007年07月09日
11:41
 うなづきロボット
いやほんとに世界が疎ましく思えるのは、繰り返しかかってくるセールス電話が、耳に飛び込んでくる日。選挙をにらんだ政治家の言葉が、宙に舞う日。社会からの離脱ボタンを押したくなる。

たぶん一番疎ましい人間は、セールスマンと政治家だ。僕は昔から、あからさまに彼らを蔑んでいる。連中は言葉を痩せさせるから。言葉をだめにする人間は軽蔑されてよいのだ。

相手の首を縦に振らせることだけを目的に発せられる言葉は、死んでいる。なぜなら言葉は、何にうなづき、何にうなづかないか、という分節化から出発するからだ。

このまえ国立新美術館で会ったひとたちとの会話は、「うなづく」ことと「うなづかない」ことが綾をなしていて、すばらしかった。自分の発した言葉が、空間で組織になっていく感じだ。人と物理的に会うというのは、首(身体)の動作が言語をなすということだ。

資本主義の原理と民主主義の原理が具体化すると、どちらも「うなづき」を誘発することだけに関心を向けはじめ、「広告」や「選挙」に収斂していく。そこになにか設計上の間違いがあるんだろう。

昼時のファミレスを占拠する母親たちの会話を間違って聞いてしまうと、あの人たちは対立を生む言葉をもたない。それは、うなづくために会話をしているからだ。うなづきは安心を生むし、マス化したうなづきはお金を生み出し、権力も生み出す。うなづきは媒介ではなく、目的なのだ。

テレビの「解体新ショー」で「うなづき」をテーマにしていたそうだ。僕は見ていないのだけれど、友人の日記(http://mixi.jp/view_diary.pl?id=483415971&owner_id=3186726
)から推察すると、渡辺富夫岡山県立大教授の「心が通う身体的コミュニケーションシステムE-COSMIC」あたりを紹介するものだったようだ。これは面白い研究だと思う。

しかし、動物が群れをなすのは、驚くべきことではなく本能だ。ロボットやヒューマンインターフェースの研究が、意識を問題にする前にジョイント・アテンションを応用しちゃっていいんだろうか。

Web2.0流行りにも同じ匂いを感じる。「うなづく」ことと「うなづかない」ことを、どう分けるか、なんてどうでもいいとみんな思い始めているんだ。「擬態」を開き直って認めちゃった「うなづき」なんて、まったく意味ないよ。
 

コメント    

2007年07月09日
11:50
osamu
>「うなづき」なんて、まったく意味ないよ。

うんうん^^
2007年07月09日
11:57
kazu
黙って思案する、そんな、場面にお目にかかる事が少なくなっていますね。そんなに、簡単に答えが出るかよー!!。
2007年07月09日
12:05
安斎利洋
>うんうん^^

いやーうれしいもんだね、うなづき^^

>黙って思案する、
>そんな、場面にお目にかかる事が少なくなっていますね。

一瞬立ち止まって考えてしまうような問題(アポリア)を言ってみて、相手が考えないで頷いたら、あ、こいつは人工無能だ、とわかってしまうわけです。
2007年07月09日
12:20
Archaic☆Lucare
とりあえず共感をしめしてコミュニケーションをとるというスタイルもあるので、その辺どうなのでしょうね。
いわゆる『ぬるい言葉にぬるい会話』ですね。
ファミレスのお母さんたちのおつきあい会話は本当に無駄ですね。正直な意見を述べるとそのあと派閥と噂でもみくちゃになるのが分かっているからと思います。わーい(嬉しい顔)
とくに日本はそういうことが礼儀とされるようなところもあり、こちらアメリカでもまずは 相手の意見を尊重してから反論するようなことがマナーとなっているようにも思えるのです。

我が家では時々その暗黙知的マナーを飛ばして一気に議論に入り難しい事態になることもあります。わーい(嬉しい顔)
2007年07月09日
12:33
安斎利洋
いきなり頷いたり褒め殺したりして、そのあとで「でもね」とくるのは、一種のスタイルですよね。それから、全体通して肯定的なんだけれど、大事なところはちゃんと批判が入っていたり。そういうコミュニケーションは、言語の綾をなしていると思います。
自分が頷かれたりから相手に頷く、というのはロゴスじゃなくて戦略だから空虚なんだと思う。これは、単純な機械でもできるしぐさです。
2007年07月09日
14:18
あおいきく
うなづくことのほうが少ない7歳児と日々格闘していると、人間はうなづかないのが本性じゃないかと思えてきます。
2007年07月09日
14:28
kazu
>うなづくことのほうが少ない7歳児と

それは、思考のメカニズムが活発に働いていて、
色々な思いが頭の中で交錯しているからだよね。
2007年07月09日
14:46
安斎利洋
7歳から見れば大人は、世界の規則だけに長けた、小ざかしい馬鹿者ですから。木陰の神様も見えないし。
2007年07月09日
15:16
あおいきく
おとなになる途中の人じゃなくて、はらぺこあおむしのように別の生き物ですね。
蝶には葉っぱのみずみずしい匂いも味もわからない。
2007年07月09日
15:23
安斎利洋
朝、目覚めるときに、見ていた夢をうまく思い出しながら起きると夢を捕獲できるのに、うかつに目をさますとすっかり夢が揮発してしまいます。あおむしから人間になる時って、きっとそういうことが起きるのだと思います。先日見た彼は、たたき起こす大人のいない場所で、夢見心地の時間を過ごしているのだと思いました。幸福なあおむしです。
2007年07月09日
16:27
TOSHI
政治家とセールスマンの話術に騙されてたまるかっていうのは、まさにその通りだと思う。ただ、本当に彼らは相手を頷かせようとしているのだろうか? 拒絶反応が先に立つのは、一方的にパターン化されたお題目をとなえているだけだからなんじゃない?
生活者として政治家とセールスマンを嫌う気持ちは理解できる。しかし、自分がもし政治家だったら、もしセールスマンだったらという観点から考えてみることも大事じゃないかな?
なぜなら、政治家もセールスマンも人間社会にとって不可欠な存在で、そういう連中が蔑まれるだけの存在だっていうのは不幸な状況なわけだから。
政治家すなわち代議士も、公務員すなわち公僕も、本来はエージェントなんだよね。コミュニティの規模が大きくなるにつれて、官僚が誕生し、間接民主主義という社会システムが編み出された。僕は、このエージェントどもがちゃんと仕事をするには、どんな社会システムがいいかっていう観点から「頷き」の意味を考えるべきではないかと思っている。
セールスマンについてもね、実は自分もセールスマンなのだという自覚を持ったほうがいいと思う。
なんらかの価値あるものを提供し、その対価を得て糊口を凌ぐ。それは、商社マンであろうと医者であろうと弁護士であろうミュージシャンであろうと変わらない。
相手が心底「そうだ!」って頷きたくなるようなメッセージを発せられるセールスマン(○○○○○←ここにいろいろな職業を入れてみる)ってなんだろうってね。
2007年07月09日
17:29
安斎利洋
>実は自分もセールスマンなのだという自覚を持ったほうがいいと思う。

ここだけは面白いね。

プロは人の1歩先を行かなくてはならないが、1.2歩先を行くと食えなくなる、って話があるね。踵を母集団にくっつけておく、という社会性は僕だってもっているわけだ。しかしつま先を入れるつもりはない。

僕は、検索万能の世界にセールスマンは必要ないと思うよ。売りに来ないと気づかない人は、だんだん少なくなってきている。すべての人がセールスマンなら、職業的セールスマンは必要ないわけだ。

同様に、すべての人が政治家なら職業的政治家もいらなくなるんだけれど、これはにわかには無理だろう。
2007年07月09日
23:08
TODO
あの番組は観ていたけど、うなづきロボットはいただけない。
ロボット自体ではなくそれを喜んでみせたTVスタッフ達にね。
2007年07月09日
23:39
うさだ♪うさこ
男性と女性の言葉が違うところは、女性は基本的に対立ではなくて、共感する (うなづく?) ことを基本にコミュニケーションしてるから、らしいですが、それは学校の女子トイレ内でも、ファミレス内でもかわらないんでしょうね。
でも、私は女性ですが、仕事中にかかってくるセールスマンの電話と、選挙期間中の宣伝カーの騒音にはいつもブチキレてますので、それとこれとは別問題かも、、、
2007年07月10日
00:10
あ っ こ
うなぎロボット・・・って読んでしまった私・・・ゴメンナサイ・・・・・
2007年07月10日
05:51
小林龍生
ちょっとずらすけれど。
先日、イタリアに行った。レオナルドやフラ・アンジェリコのものを含め、たくさんの《受胎告知》を見た。同じ受胎告知でも、それぞれに少しずつ構図が異なっている。特に、マリアの手の表情。
で、気がついたのだけれど、受胎告知(ルカ1:26〜)は、プロセスだということ。天使ガブリエルに神の言葉を告げられたマリアは、最初は混乱して拒絶的な態度を示す。しかし、天使の言葉を聞くうちに、内的な変化が起こり、最後にはうなずきとともに、無条件の受容を表明する。
画家たちは、それぞれに、この変化のプロセスの中から、自分がもっとも触発された瞬間を切り取って視覚化しているのだ。たぶん、レオナルドはプロセスの始まりの部分を、フラ・アンジェリコはプロセスの終わりの部分を。
福音書のこの箇所が、あまたの画家や音楽家の創作意欲を啓発した根源は、きっとこの言葉による心の変化のダイナミズムにあるのだ。
2007年07月10日
08:42
安斎利洋
>あの番組

まだYouTubeにあがってきてないな。NHKが自分でWeb公開してほしいですね。視聴料とってるんだから。

>女子トイレ内でも、

女子トイレ内で、うなづきあってるんですか。
男子トイレでは、隣から覗き込んでくるやつがいる。比べるな!

>うなぎロボット

それは、あるね。mixi、字がちっちゃいから。うさださんが「ワンコ」の話を書くたびに、読み間違えます。
2007年07月10日
09:06
安斎利洋
>ちょっとずらすけれど。

いやむしろこの話、僕にとってはうなづき問題のど真ん中だな。

共感は、<私>が外部と同期することじゃなくて、<私>の変化の問題だから。

新しい日記に、継承してみます。
2007年07月10日
09:23
あおいきく
ちょうど読んでいた、このシンポジウムの主旨に重なるような…
http://www.nulptyx.com/lec_amateur.html

続きをお待ちしています。
2007年07月10日
18:45
安斎利洋
ほんとだ。石田先生、興味深いです。

しかしなぜ、愛好者(Amatorat)で、あらたな無数の作者(Author)の誕生ではないんだろう。

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