安斎利洋の日記全体に公開

2006年10月27日
22:25
 体験顔面麻痺
虫歯3本のうち2本の治療が終わり、今日から3本目の右奥歯にとりかかった。

もう2本やってるので、初日は麻酔をかけられ、なんやかんやされて、最後に「麻酔が抜けるまで食事しないでください」と言われるのは先刻承知していたのだけれど、しまった、大空腹だということに気づいたときには、すでに電動椅子の上。

上記の通りにことが運び、「麻酔が抜けるまで食事しないでください」「ふぁーい」と返事をして出てきたものの、ふらふらするのは空腹のせいだろうか、麻酔のせいだろうか。ジュンク堂で座り読みしていても、ひどく眠くなる。1時間たっても、右下の唇に感覚がない。どうしよう、餓死しそう。(しねーよ)

ふと、このままメシを食うとどうなるのだろう、という疑問が頭をもたげる。歯の接着が弱くなるとか、薬が効かなくなるとか、そういう理由は、今日のところはないわけだから、きっと食事がしづらいよ、という意味じゃないだろうか。だとしたら、それは克服可能なのではないか。気合の問題ではないか。

好奇心と空腹に背中を押されて、近くの定食屋に入り『彩り定食』といういろんなジャンルの混ざったやつを注文してみる。

味噌汁を飲む。右下の感覚がないわけだから、きっと自分の一部が欠落した感覚だろうという予想に反し、意外なことにお椀が右半分欠落して感じる。というより、左半分は硬い漆器、右半分はおっぱいのようなシリコンのような感じでへこんでしまう。

これはやばい、と思ってお椀を置くと、すっと味噌汁が右の口元から流れ出したような気がする。気のせいか。いや、その通り流れている。触ってはじめてわかる。

右半分が欠落した焼き魚をほおばり、右半分が柔らかいご飯といっしょに慎重に噛んでみる。こぼれるとかっこ悪いので、口を力いっぱい閉じているのだが、時々プスッ、プハッとか音をたてて、空気が口に入ったり出たりする。キャベツの千切りを食べると、ぱらぱらとご飯の上に落ちる。だんだん人の視線が気になりはじめる。

驚いたのは、噛んでいるものがどんどん右下の頬と歯茎の間に入っていって、それがなかなか取れないこと。自分の口の中で解決できない。仕方なく、箸でかき出して飲み込む。完璧な老人風情。

少なめの定食を食べきるまでに、たっぷり普通の人の倍は時間をかけ、最後に冷たい麦茶を飲む。左半分は冷たく、右半分はおっぱい。

麻痺とは、こういうことなのかと、あらためて驚く。これは、誰しも一度体験しておくべきでないのか、と思いながら帰る道すがら左頬を触ってみると、だんだん感覚が戻っていて、しかも一粒ご飯がついていた。
 

コメント    

2006年10月27日
22:31
私も腰椎麻酔の下半身麻痺手術を受けて、その覚める過程で脳だけで考えているんじゃなくて、神経の両端で考えてるんだ、足やお腹も考えているんだとわかりました。おもしろかった。腰から下だけくびりとられたみたいでした。
2006年10月27日
22:58
kazu
麻酔による顔面痺れなら、私もベテラン。
何を隠そう、歯がガタガタで、老後のためと、インプラント治療を数本やりましたので。歯科の治療台でお馴染みの、うがい水も、唇からだらだらですものね。
口紅をぬり直そうにも、唇がこりこり硬くて、紅筆が滑らない。
しかし、安斎さんは相当空腹に勝てなかったみたいですね。
2006年10月27日
23:19
godzi2
いくつになっても、発見することはあるもんだ。
2006年10月27日
23:27
H.耕馬
食事だけじゃなく
ヨガの行者みたいに、唇に釘を通すとか
もっと、いろいろ試してみれば良かったのに。

きっと、血は出ても痛くないよ。
2006年10月27日
23:31
Ken☆
最近、奥歯を抜いたりしているんですけど、
 現在の歯医者でここまでの麻痺はないんですよね。
麻酔量と麻酔範囲の調整って、ここまでできるんだという感じ。
 歯医者出た直後から、普通に食べられるし飲める。
ぜんぜん違和感がないことの方に驚いてます。
2006年10月27日
23:40
最初は「がんなんあは」で、しばらくして顔面麻痺と言えたのではないですか?
ともあれ、明瞭に表現できているので心配ないですね。
2006年10月27日
23:40
中村理恵子

最新治療は、けずったりぬいたりどかしたりという破壊行為なしらしいね。
ある種の薬剤つめこんで、虫歯菌が死滅して再生するって?
夢みたい。
虫歯は、薬で治らない。じゃなくて、薬で治るらしいじゃん。
2006年10月27日
23:43
安斎利洋
僕の虫歯は、もうちょっと前だったら、神経抜かないで3mixで治せたらしい。3種類の抗生物質を混ぜて封入する。
でも、それって超耐性菌を作ったりしないのかな。
2006年10月27日
23:47
親しらずも、余程変な場所にでも生えないかぎりは抜いたりしないで、他の悪くなった歯に移植して使ったりするそうですね。
2006年10月28日
00:39
Archaic
「右半分はおっぱい」という感想がとてもリアルですね。
何だかこの実験が空腹を満たすことの満足だけでなく楽しめたのは、そのせいなのでは?などと思ってしまいました。これが「右半分は剣山」とかだったら、即座に食欲をあきらめていたでしょ?なんて。
2006年10月28日
00:39
安斎利洋
>最初は「がんなんあは」で

不思議なんですが、言葉はちゃんとしゃべれるんですよ。
って、ちゃんと、だと思ってる観測者がちゃんとしてないかも。
2006年10月28日
01:02
安斎利洋
>「右半分はおっぱい」という感想がとてもリアルですね。

感覚が遮断されると、無限に柔らかく、無限に自分の体温に近いものの感触を感じ取ってしまうんですね。だからおっぱいになる。

>右半分は剣山

それもまた、別の喜びかも。
2006年10月28日
01:39
にしの

こぼすのもアレですが、
自分の唇を食べちゃうのが危険なんです。
2006年10月28日
02:15
安斎利洋
>自分の唇を食べちゃうのが危険なんです。

おーー、それは気づかなかった。ありえますね。怖っ!

麻痺するということは、自と他の区別がなくなることなんですね。他のものが自分の一部と同じに感じ、自分を他のもののように食べてしまう。
逆に言うと、感覚とは自と他をわけることか。
2006年10月28日
04:11
イトカワ
理恵子ねぇ>それってテレビで見た。どっか東北の治療院で数ヶ月先まで予約一杯だってね。しかも一度で治せるってね。ふはは。
2006年10月28日
08:05
MERC
麻酔で感覚を失ったとき、そこにあるべき物があるのかどうだかすごく不安になりますね。
触覚や味覚の応答(フィードバック)がかからない。我々が日常生活の中で意識しないで取っている行動は、実に多種のオートフィードバックで均衡を保っている。
ヒトがまっすぐ歩けるのも、視覚や三半規管の平衡感覚や回転感覚、足や手の筋肉や皮膚からのフィードバックあってのこと。どれが欠けてもまっすぐ歩くことすら容易ではない。
事故などで手を失った人が、時に無いはずの手の痛みや痒みを訴えることがありますが、脳はよっぽど末梢からのシグナルを欲しているようです。
2006年10月28日
11:11
jetson
>「麻酔が抜けるまで食事しないでください」
麻酔が醒めないまま物を食べると、自分の頬の内側を食物と間違えてガジガジ噛んでしまい、口中血だらけの大惨事になることがあります。(経験者)
2006年10月28日
11:36
ウチの子供は保育園児の時に唇
>ガジガジ噛んで
しまい、大変なことに。

腰椎麻酔手術の時は、動かす神経が先に回復して、
実際は足の指を動かすことができているのに、
『動かしている』という感覚がもどらないという時差があったり、
ももを自分の指でさわっても、「さわられてる」感覚がなくて、
「さわっている」だけの一方向だと、腰から下に
温いゴムのエプロンがついてるような変な感じでした。
『脳はよっぽど末梢からのシグナルを欲している』
その喪失感、欠落感は一時的にしろかなりな衝撃でした。
2006年10月28日
12:59
安斎利洋
神経系の届く範囲が「私」の範囲だから、届かなくなった肉は食いものになるんですね。

北朝鮮に麻酔を打つと、クーデターが起きるだろうか。すでに麻痺しているから、話が違うか。
2006年10月29日
14:48
miyako/玉簾
何て無謀な行い!いつほっぺたや唇を噛んじゃうかと思ってはらはらして読んでいたけれど、それしなくてよかった。
よくあるんですよ。おもいっきりほっぺたの内側を噛み切っちゃうとか。

>噛んでいるものがどんどん右下の頬と歯茎の間に入っていって
食べ物を噛むと舌が右左に食べ物を送って両方の歯で噛むシステムになっているそうですよ。テレビで知りました。
2006年10月30日
16:26
あきたむ
私も先日歯の治療で右下に麻酔をかけましたが、お茶を飲むと湯飲みが欠けている感覚。。感覚がないということは、そこにものが無いのと同じなのか。。麻酔は欠けてなくても、治療中で歯の表面が違うだけで、食事中思いっきり、ほほの内側をかみました。一度噛むと腫れてしまって、食事の時間が恐怖の時間に、すぐに、歯医者を予約して、表面を削ってなんとか納まりました。

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