安斎利洋の日記全体に公開

2004年10月10日
23:00
 美術出版社疑惑
数年前、新進アーティストを紹介するあるテレビスポットに出演した若い作家が、その見返りとして100万円払ったという話を聞いた。僕の知る常識の範囲では考えられないので、よほど劣悪なプロダクションか、もしくはスタッフの個人的な詐欺行為だと思う。もしかすると僕の常識の方がずれていて、そんなことはよくある話なのかもしれない。寄生虫はどんな領域にもいるもので、クリエーターに寄生する卑しい種類もいるわけだ。

著作権台帳の豪華版を作るからとか、美術家年鑑を出すからとかいって、掲載料をとろうとする話はしょっちゅう来る。駆け出しの作家だと、宣伝目的で払ってしまう人もいると思う。マーケットを作らなければならない業界で、クリエーターをマーケットにしようとするのだから滑稽だ。

先日「美術出版社 ART BOXインターナショナル」という会社から、作品集を作るので参加しないかという勧誘が、メールと封筒で届いた。掲載には審査合格・掲載料[\52,500-(税込)]が必要、出版後はART BOXが本の頒布とエージェントによって活躍のサポートを行う、とのことだ。

これが詐欺だとは言わないけれど、美術出版社というのが気になった。僕にとっては最初にCGの本を出してくれた会社だし、誇りあるブランドだと思っていたので、正直少々落胆した。

ふと、mixiで画材のコミュニティなどで活発な活動をしていらっしゃる Bambookさん( http://mixi.jp/show_friend.pl?id=27237 )が、美術出版社の関連会社にいらっしゃることを思い出し、問い合わせてみた。丁寧な返事をいただき、この会社は美術出版社グループにはないことが判明。

おそらく問い詰めてみたとろで、「美術系の出版社」を「美術出版社」と言ったまでで固有名詞ではない、とかなんとか言い逃れるのだろう。騒ぐつもりはないけれど、若者のアンビシャスを食い物にする了見は、断じて許せない。
 

コメント    

2004年10月10日
23:09
Bambook
どうもです。
作家の方の作品を掲載させていただくのであれば、
出版社側が掲載料をお支払いするべきものだと思います。

美術系の出版社でも、朝日新聞日曜版の人事募集の公告に
同様と推測される掲載が過去にあったと思います。

「美術出版社が、一般名詞的な登記をしている」と毒づかれ
てしまいそうですが(^_^;)
2004年10月10日
23:24
安斎利洋
>「美術出版社が、一般名詞的な登記をしている」

確かに^^;

朝日芸能が朝日新聞社と関係ない、みたいな話ですけどね。しかし、あのメールを読んで、美術出版社グループと思わない方が難しいですよ。あきらかに美術出版社の「虎の威」を偽装しています。
2004年10月11日
00:05
びすけっと
http://www.artbox-int.co.jp/
ここですか?

http://www01.tcp-ip.or.jp/~freebbs/room/fran/minibbs.cgi
こんな書き込みもありました.

ヤマハの音楽教室の階層というか,コンクールなんかも
似てますよね.
2004年10月11日
00:20
安斎利洋
>こんな書き込みもありました.

なーるほど、クリエーター系のホームページをみつけては、こういう案内をしているわけですね。

>ARTBOXは主に美術出版社として事業を展開致しておりますが、

この文章では、一般名詞ですね。

>ヤマハの音楽教室の階層というか,コンクールなんかも

あれって、お金とるんですか。なんとか教室は、一から指導するわけでしょうから、まぁ罪は軽いかな。講談社フェーマススクールも、そうですよね。要するに、家元制度の延長線なんでしょうね。
2004年10月11日
00:57
miyako/玉簾
もとミュージシャンの友人がライヴハウスを持っているのですが
「お金を払うからここに出させてください。」
と言う若者が多いそうです。
そこのお店に出演したという履歴が欲しいらしいのです。
私達の感覚では、もし演奏が下手で、そのお店に出演させてもらえ
ないようなレベルであれば、
「そのお店に見合った演奏ができるようになるまでがんばる。」
というのが当たり前で、お金を払った事はありません。
まあ、チャージはそんなに入らないとしても。
最近では、結構それが当たり前みたいになっていると言っていまし
た。
自主出版という贅沢な事をした知り合いがいますが、彼女の所には
出版を持ちかける話が沢山来ます。
中には、大手出版社含まれていますが「我が社の名前を貸すから出
版料は、自己負担で。」という話でした。
最近の傾向なんでしょうね。

2004年10月11日
01:03
安斎利洋
>中には、大手出版社含まれていますが

どこですか、それ。

出版社は、自分の眼力で文化を洗練する使命をもっていて、それをしなかったら、インターネット上のコンテンツと同じですよ。まわりまわって、本への信頼が低下して、自分の首を絞めることになる。

もっとも、出版社やTV局に頼らずに、文化を鍛える仕組を考えるべきなんでしょうけどね。

でもなー、ジュンク堂にいるときが一番幸せなんだよなー。
2004年10月11日
01:13
> 出版社は、自分の眼力で文化を洗練する使命をもっていて、
> それをしなかったら、インターネット上のコンテンツと同じ
> ですよ。まわりまわって、本への信頼が低下して、自分の首
> を絞めることになる。

ELKをめぐる冒険
http://park.zero.ad.jp/yuyujp/elk/elk.htm

ストレートにこのサイトのことを思い出しました。
2004年10月11日
01:36
miyako/玉簾
>どこですか、それ

大体その話を持って来た人自体があやしいので、もし、違っていた
ら問題なのですみませんがここでは申し上げられません。

彼女の所には、それ以外に某大学教授(自称)らしい人が来て、
「私と共著で本を作りましょう。」
と持ちかけました。
「文章、資料は私がサポートするわ。出資は、あなたお願い。」
という話で、もし、それに応じた場合、その教授(自称)の出版物
のクレジットが一行増える訳で、知り合いは大学教授と本を出した
という満足を得られるという訳です。
知り合いはまるっきりの素人なので、なんだか危なっかしくて見て
いられません。

2004年10月11日
02:03
安斎利洋
>ELKをめぐる冒険

面白かった。この方のやってきたプロセスもわくわくするし、いろいろなことを考えさせられました。

12年ほど前、岩波書店の由緒ある地下室で「MM会」という秘密結社めいた会が開かれました。このとき、ゲストで話したのが黒崎政男さん(最近NHKで怪しい服着て出てます)。

黒崎さんが話したのは、口承文化まで引き戻される文化、著者の死、本の死というテーマ。僕は、作者が絶対でなくなるという話に、居心地の悪いショックを受けました。自分自身の存在意義は、作者であることだと思っていたからです。実は、その直後に中村さんに「連画」のお誘いをしていて、いまから思うと連画の引き金を引いたのは黒崎さんだったかもしれない。

岩波書店の独特の思い空気の中で、出版の死ということを鳥瞰的に暴かれたのは象徴的でした。当時は、まだPC98全盛でパソコン通信も立ち上がったばかりの前インターネット期。岩波は広辞苑を電子ブック化した後で、電子ブックをめぐる出版社の意識も、微妙に食い違っていた。

まさに権威による縦糸=トランスミッションが死に、ネットワークによる横糸=コミュニケーションの時代に以降する時期だったんでしょう。権威は時に悪でもあるけれど、権威の良心というのもあります。しかし、権威は簡単に良心を失うこともできます。

3人の教授から信頼されれば教授になれるとします。すると、3人のバカな教授がいれば、すべてバカな教授に支配される可能性がある。権威って、そういうもんですよね。

ELKの話って、善き権威としての出版社が機能しなくなっていた、ということ、なのかもしれません。なんか「信じられない」というより、「あり得る」と思えるところが情けない。
2004年10月11日
02:05
安斎利洋
美術出版社は、善き権威として機能していると思います。
2004年10月11日
02:13
安斎利洋
>「文章、資料は私がサポートするわ。出資は、あなたお願い。」

出資しないと本の出せない大手出版社って、あるのかなー。その某大学教授が怪しくないですか。
2004年10月11日
03:27
jun@NP
大手出版でも関連で自費出版を事業化してるトコ多いですよ。
自費出版自体は、かなりの市場規模だと思います。自費出版でも、まともなトコは担当編集者が付いてそれなりの編集作業はします。
その部分が出版社の利益って感じですかね。
以前から自費出版専門の電子書籍サイトやれば、それなり需要はある気がしてます。

出資というのとはちょっと違いますが、買い上げの契約などをした上で、
出版している書籍(特にビジネス書)はけっこう多いと思いますよ。
2004年10月11日
03:39
安斎利洋
>大手出版でも関連で自費出版を事業化してるトコ多いですよ。

え?その出版社の名前で出しちゃうんですか?
それじゃ、出版社じゃなくて印刷会社だ。
2004年10月11日
05:51
miyako/玉簾
>それじゃ、出版社じゃなくて印刷会社だ。

そうなりますね。

>その某大学教授が怪しくないですか。
はい、すごくあやしかったです。
2004年10月11日
11:25
モリワキット
ちょうど似たような話がありました。
学生が絵本コンクールに応募したら、落選したけど、見込みあるので、一緒に出版しませんか?ただし出資してください。とそのコンクールの主催である出版社の編集者からのお誘いの手紙。学生はもう心揺れて、あやうく止めましたが。
どうも、絵本業界もそのパターンらしい。
新人コンクールで釣るなんて、なんか許せない感じ。
2004年10月11日
14:40
安斎利洋
これは卑劣ですね。どこですか、それ(こればっか)。

こういうのって、トップが了解してやっていることなんだろうか。編集者の一存だろうか。

ブランドの積み上げた信頼を、末端が切り崩して生き延びている、っていう場合もありますからね。ひいては、三菱自動車のように、ブランド全体がプライド維持機能を失っていくということになる。
2004年10月11日
20:06
べてぃ☆
色々なトップが、デジタル業界に進出(というか邪魔しに)してますから、きっとトップダウンなんだと思います。
うちは、小さなプロダクションを運営してますが、商社がらみの仕事が1番痛いです。
WEBを作るのに、ページいくらで、営業管理費いくらと抜かれるだけですから。
そういう人たちと仕事したくないので独立したのですが、今だに変な粗利が横行してますね。

本題の書籍のお話も、本当に良く理解してしまいます。
アートを何だと思っているんでしょうね。
早く日本を出たい限りです。
2004年10月11日
20:30
安斎利洋
>早く日本を出たい限りです。

外に理想郷があるとは限りませんよ。怪しいエージェントは、どの国にもいるものですから。

商社も出版社も本来コーディネーターなんですけど、仕事内容に関係しないでマージンだけとる構造だけ残っている、っていうのが、ほんとに多いですね。弱小プロダクションや個人事業者は、突然へこたれてしまいますよ。
2004年10月11日
20:42
安斎利洋
岩波書店のE.L.カニグズバーグ本を糾弾する話、再度読みに行って、これは単純に怪しいひっかけ話といっしょにできない、複合的、重層的な、より深い文化の問題だ、これは厳密に考えないといけない、と思い直したところです。

http://park.zero.ad.jp/yuyujp/elk/elk.htm

昔から、なんでこの出版社からこんな粗悪な本が、ということはありました。違うのは、昔は一冊の本に集まる批評の圧力がもっと高かった。批評の圧力が無数の対象に分散して、弱まっているのは確かです。

こういうボトムアップの鍛え方が、善いものをないがしろにするいい加減な話を駆逐する、という好い前例になると思う。
2004年10月11日
21:16
べてぃ☆
>こういうボトムアップの鍛え方が、善いものをないがしろにするいい加減な話を駆逐する、という好い前例になると思う。

がんばります!!!
2004年10月12日
13:22
はらこ
私も大分昔に聞いたのでうろ覚えなのですが…

ビスケットさんのいっていたヤマハの話って、レッスンで受けるコースがどれかで、コンクールの成績が大体決まってしまうてことだったと思います。
上級コースに通っている人ほど成績が良くなるようになっていて、当然上級コースの方がレッスン料も高いってシステムじゃなかったかな?

露骨にお金を取るわけではないですがメカニズムは似ていますよね。
2004年10月12日
17:54
安斎利洋
これってまったく家元制度の話と同じなんだけど、これとまったく同じ構造って、実は三流医学部なんだよね。

下手な奏者が賞とっても別にかまわないけど、馬鹿が医者になってほしくないよ。
2004年10月12日
20:37
tamie
この「美術出版社 ART BOXインターナショナル」という会社からの勧誘メール、私ももらったことあります。当時も5万円也でした。
うさん臭く思いメールは無視しましたが、そんな本がホントにあるか本屋で確かめたところ、りっぱなのが美術書のコーナーにありました。
著名イラストレータも掲載されていて、玉石混交。 想像するに、頼まれて掲載している作家と、5万円出して掲載してもらうその他大勢組とがいるのじゃないでしょうか。
こんなの 無名な私が掲載したら「5万払ったのね」って思われちゃうってことじゃん と思いました。
なんとなく やな気分でした。
2004年10月12日
20:53
安斎利洋
本を出さない詐欺では、ないってことですね。ホームページを見ると、けっこうたくさんのイラストレーターがいて、つまりビジネスとして成り立っているわけですよね。掲載料をとって、その本も作家が買うと、大雑把に計算してもペイしますね。キュレーターのいない貸画廊みたいなもんか。

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