安斎利洋の日記
2004年10月08日
02:02
プルートウの「世界」
手塚治虫は二人いる。漫画家としての前期手塚治虫、そして劇画を批判的に取り込んだブラックジャック以降の後期手塚治虫。漫画の純化、抽象化された世界からすると、劇画は表現の後退としか思えない。しかし、劇画特有のリアリティには、漫画では決して到達できない領域もある。もし、手塚前期の代表作である鉄腕アトムを、後期手塚が書き直したらどうなるだろう。
手塚漫画の末裔、浦沢直樹が描いた『プルートウ』は、劇画的リアリティの中で再現した鉄腕アトムの「世界」だ。
歌舞伎には、「世界」という概念がある。たとえば、お染久松の「世界」というと、お染久松の物語からリメイクされた新作だ。八百屋お七の「世界」といえば、八百屋お七の遺伝子を継承しているインターテクスチュアリティを表明することにほかならない。
浦沢直樹が受け継いだ鉄腕アトムの「世界」は、ブレードランナーや順列都市を通過した現在のコンテキストでしか描けない、心の物語になっている。心の闇を描いた「モンスター」の、そして「20世紀少年」の抜群の構成力をもった浦沢直樹だからこそ描ける、重層的で悲しい心の物語だ。
失われた歌を採取してくる戦争ロボットの物語が、特に美しい。
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浦沢直樹×手塚治虫『プルートウ』第一巻
コメント
2004年10月08日
02:16
フナ
安斎さんこんにちは。漫画が読みたくて読みたくて仕方がない今日この頃です。モンスターも20世紀少年もまだ途中までしか読んでません(T-T)近々漫画喫茶に行ってこようっと。
あと、絵も漫画もあまり詳しくありませんが、この日記を読んで手塚治とピカソってなんか近いかもと思いました。
2004年10月08日
02:22
安斎利洋
共通点ありますね。スタイルというものを、自分が遠くまで飛ぶための道具にできる人、という意味で。
2004年10月08日
02:24
yujim
PLUTO、すごすぎます。
安斎さんが言っておられる「ノース2号(この、無味乾燥した名前との対比がまた・・・)」のエピソード、美しいですよね。
で、最新の13話が、また・・・(後略)
2004年10月08日
02:30
安斎利洋
おなじく…後略
原作「鉄腕アトム」の該当部分を、ほとんど忘れてるんですよね。探してきて読まなくちゃ。
2004年10月08日
10:32
あきら
こないだ「鉄腕アトム」の該当部分を読みました。
後で加筆したものらしく、プルートが死ぬ場面に読者から
沢山の抗議が来たと書かれていました。
もう、浦沢のPLUTOは原作を超えて新しい世界に入っていると
思います。これからどうなるんだろう。楽しみ。
月の頭にしかオリジナルを買ってません。
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