安斎利洋の日記全体に公開

2006年06月01日
01:52
 上田君
上田君は25年ほど前、目覚まし時計の電気仕掛けで自殺した。それを僕は、昨年知った。当時、彼は前触れもなく突然やってきてよく泊まっていった。ユーミンのLPを何枚も「もう聞かないから」といって置いていったこともあった。いったいどう暮らしていることやらと思い出すこともあったが、ほとんど彼のことは忘れていた。僕には、彼の心を読み取る力はなかった。今日、母親とその話をした。ある日、僕が不在だったにもかかわらず、彼と母が長電話をした話を聞いた。いつも料理を作ってくれてうれしかったです、と彼は言ったそうだ。なにもご馳走していないじゃない、何がおいしかったの、と母が聞くと、彼はきゅうりに味噌マヨネーズをつけたやつ、と言った。そんなの料理じゃないわよ、と二人で大笑いしたそうだ。
 

コメント    

2006年06月01日
02:10
何故か、母と話をよくする友人というのは(男女)
何人か居たように思う。自分の親とはそんなに長くは話すことはないから不思議に思った。
2006年06月01日
04:38
小林龍生
ある時期すごく親しくしていて、その後疎遠になった友人。その関係が個人的であればあるほど、その消息は伝わりにくくなる。学校や企業といった社会的組織の介在なしに個人的な関係を長期に維持することは困難を極める。
mixi上でのつきあいしかなかった人間が、突然mixiから消えてしまったとき、その人間が物理的にもその生命を終えたかどうかは、mixiを通しては了解しえない。
立ち入った質問かもしれないけれど、安斎さんはどのような経路で昨年になってその友人の死を知ったのだろうか。
2006年06月01日
10:21
安斎利洋
彼はドロップアウトが常態だったから、消息を絶っていることに誰も違和感をもたなかったんですね。思えばフーテンの寅さんのようだった。親しい友人たちでさえ、またいつかふっと現れるだろうと、みんな思っていた。そのうちの一人が、彼の実家を訪ねてその事実を知った。世界から離脱する方法としては、完璧だったと褒めてやりたい気分です。
2006年06月01日
13:08
小林龍生
ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』に、フランクルが強制収容所の星空の下で自分の心の中の夫人と豊穣で生き生きとした会話を交わす場面が出てくる。この時点で、夫人は物理的にはすでに死んでいるのだけれど、フランクルの中では確実に(フランクル自身の一部として)生きている。では、フランクルが夫人の死を知った後では同じような心の対話が不可能か、という問題設定をするとする。ぼくは、可能だと思いたい。
2006年06月01日
14:00
安斎利洋
上田とは高校が同じで、彼は留年して一学年下にずれてしまった。仲がよかったのだけれど、些細なことで気持の行き違いがあり、なんとなく手に負えないやつという思いを抱いていたような気がする。昨日母の話を聞いて、むしろ途絶していた会話と感情がつながったような気がした。
<私>というのがアブソリュートに身体に結びついているなら、死んでしまったとたんに情報の相互作用はなくなるから、会話というのは自問自答に過ぎないんだけれど、もし<私>が浮遊した状態だとしたら、僕も彼もいたるところで会話をし続けていることになる。
2006年06月01日
15:21
小林龍生
Got it!!
《会話というのは自問自答に過ぎないんだけれど》
近ごろの安斎さんとぼくとの会話は、《自問自答》する《自分》が自明なことかどうかという問題の周辺を旋回している。
2006年06月01日
15:33
あい組31番
上田が自殺だったとは知らなかった。悲しく思う。高校の同級生であったが、結局、卒業後は会っていない。しかし、その声、話し方、歩いている様子、今でもとても鮮明に思い出すことができる。
2006年06月01日
15:52
安斎利洋
>周辺を旋回

もしかすると、昔いっしょに書いた本の中に、同じテーマが準備されていたのかもしれません。
2006年06月01日
15:57
安斎利洋
>あい組31番

そうなんだよ。昨年、泉から聞いて、驚いた。
2006年06月01日
16:49
今池荘
中学も一緒だった。ずーーと変わらない人だったな。
合掌。
2006年06月01日
21:22
machiko
安斎さんのいた高校は2日に一度は横を通るし、私の高校も似たような雰囲気があったから、なんだか他人事の気がしないですね。
そういう人、いました。似たようなケースも。
2006年06月01日
21:50
安斎利洋
>中学も一緒だった

あ、そうだっけね。もう四半世紀たっちゃったけど、集まって弔おうか。

>machikoさん

これを知らせてくれた泉って、お宅のお隣の泉です。
2006年06月02日
00:32
machiko
>これを知らせてくれた泉って、お宅のお隣の泉です。

だろうな、と思ってました。
2006年06月02日
07:43
中村理恵子
>彼と母が長電話をした話を聞いた。

(おじゃまします、小石川同窓の輪に、しばし越境入学させてください。)
つい本人を飛び越して、家の人たちと話しこむ。
あたし、よくあります。
おもに、10代でであった長い付き合いの連中との間でね。
相手の母親も容赦しません。
「何ヤッテルの?ちゃんと食べてるの?いつもまでも親御さん生きてないのよ。」
なんてボディブロー食らいながら。
友人本人と話すより、どこか楽しかったりして(笑)。
2006年06月02日
11:15
安斎利洋
その当時の母って、僕らの年齢だ。上田って、そういえばお母さん亡くしてたんだっけ。思えば遠い昔の話だね。

不思議なのは、この日記にコメントを書いてくれた人たちが、僕にとってそれぞれある時期の最重要友人であること。なんだか時間が、粘土をこねたみたいにマーブル状になった感じ。

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