以前、田名網敬一さんのお宅にうかがったとき、毎日ある時間、同じ机に向かい、記憶から沸いてくる形をとらえて描きとめる、それを何年も続けているのですよ、という話に惹かれた。連作を見せてもらった。
同席していた編集者が、かたや連画で他者を掘っている僕らと、かたや自分の中に穴を掘っていく田名網さんを対比していたけれど、その二項対立はちょっと違うな、とその時思った。
自分を深く掘っていくと、蓋のしまったドラム缶のようになるわけじゃなくて、なぜか他者のような無限が、自分の底に開く。
去年ムサビのオートポイエーシス論に出ていた本田さんが、電車でスコップを学校まで運び、一人ひたすら校内のあるところに穴を掘り、意味もなく穴をほりつづけて、深い穴の底から空を見ている写真をmixiの日記で見た。
ときおり現れるカブトムシの幼虫。あのしーんとした土の匂い。
小学生時代のある時期、家に穴を掘っては親に怒られ、空き地に穴を掘ってはおじさんに怒られ、授業中に穴の断面図をノートに書いては先生に怒られた。穴の底に寝そべると、空がそのぶん高くなる。
久しぶりにどこかで穴を掘ってみようかな。
--------- 本田さんの掘った穴